「光と大気をキャンバスの上に描く」

人の心を揺さぶる自然。

まばゆく溶け出す境界。

独自の道を究めた風景画。

生涯を通じて風景表現を追求した英国最高の画家

ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナーが

送り出した作品たち。

(朝日新聞号外からの紹介文より)

雨上がりの土曜日に

夫婦揃って東京都美術館に出かけました。

今回のこの「ターナー展」

見に行こうと誘ったのは夫の方からでした。

彼が始めてこの作家のことを知ったのは

私がいただいた一枚のお見舞いのカードを見て。

そこには次のような言葉が万年筆で書かれていました。

「礼拝堂に降り注ぐ光の中で祈る姿は

まるでターナーの絵のようです」
 

今から15年前の1998年、私は手術と放射線治療のため

50日近い入院生活を経験しました。

その間は毎週通っていた教会はもちろんお休み。

教会員の方からも沢山のお見舞いのお手紙と

カードが届きました。

その中の一通が教会の大先輩、シルバーグレーの髪の紳士

T.H氏からのものでした。

夫はクリスチャンではありません。

でも私に代わって、毎週礼拝に出席していた彼の姿を見て

このような文面を書いて、私に送ってくださったのです。

彼はターナーの絵を見たことがなかったので

いつかは見たいとずっと思っていたのでしょう。

だから今回、駅のホームに「ターナー展」の

広告を発見したとき、すぐに

「ターナーが来てるよ。見に行こう」と

嬉しいメールを送ってきました。
 

本物を見たのは私も初めてでした。

こんなにも癒される美しい風景画があったでしょうか。

なんという温かい光の輝き。

そして重なり合う色の美しさ。

今回見た中で、特に私のお気に入りを2点ほど。

私のつたない説明では、到底表現が届かないと思うので

引用させていただきます。

「湖に沈む夕陽」

ターナー晩年の作品の一つです。

夕陽の陽光と湖面の反射を表したであろう

鮮やかな色彩に全ての輪郭線が飲み込まれています。

19世紀半ばに制作されながらも現代の抽象画の趣さえある

本作は、展覧会などで発表されることはなく、

ターナーの実験的な試みとして制作されていたようです。
 

「レグルス」

17世紀フランスの画家クロード・ロランに倣いつつも、

光の表現を主眼に置いたターナーならではの傑作。

敵国にまぶたを切られ、陽光で失明した将軍レグルスの逸話を描きました。
レグルスが見たであろうまばゆい光を表現するため、
ターナーは完成作に再度手を入れて、展覧会に出品しました。

(ターナー展より)

この2つとも、大回顧展の4番目のテーマ

「光と大気を描く」の中に展示されていました。

今回のターナー展を見に行くきっかけを与えてくださった

T.H氏は、今はターナーと同じ天国の住人です。

美しい光の中に抱かれて、安らかでありますように。

文:沢田寛子

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