「きぼうのかんづめ」と繋がった


真っ白いバックに、手描きの「きぼうのかんづめ」の文字

イラストの男の子は、嬉しそうな表情で

缶詰を掲げています。

この絵本の表紙を見ただけでは

その内容は想像がつきません。

 

絵本の舞台となっているのは石巻市で

缶詰などを扱う小さな水産加工会社です。

東日本大震災の津波で被災したときの

様子が描かれています。
 

この絵本の文章を書いたのは、すだ  やすなりさん。

私が住んでいる経堂で「さばのゆ」という

飲み屋さんを経営している方です。

 

震災が起きてしばらくしてからのこと。

私にはある1つの光景が思い出されます。

この「さばのゆ」の前で何人かの人たちが

しゃがんで、みんなでわいわい楽しそうに

缶詰を洗っている光景でした。

お店の前を自転車で通り過ぎた時、一瞬

「なんで缶詰を洗っているのだろう?」という疑問が

頭をよぎりましたが、時間と共に

そのことも忘れていました。

 

でもこの絵本と出会い、その謎が一気に解けました。

あの時みんなが洗っていた缶詰こそが

この絵本「きぼうのかんづめ」だったのです。

 

須田さんは震災前からこの石巻の会社の缶詰を気に入り

缶詰を使ったイベントを開くなどの繋がりがありました。

この会社の工場が津波に流されてしまったことは

震災の直後に知ったそうです。



 

そこでがれきの中から掘り返した缶詰を送ってもらい

須田さんと関わりのある商店街の人たちと一緒に

1つ1つ丁寧に洗っていきました。

絵本にはそのシーンも描かれています。


 

またラーメン屋さんとも協力して

サバの缶詰を使ったラーメンも考案して販売しました。

この絵本の目的は、売り上げの多くを

水産加工会社の再建にあてること、

でももう1つの目的があります。

それは「震災の記憶を風化させないこと」。

須田さんご自身が、阪神・淡路大震災で

実家が被災した経験から

「災害の記憶は風化が早い」と感じられたそうです。

風化するのを出来るだけ防ぎたいという思いで

絵本にして子供から大人までたくさんの人に

読んでもらおうと考えたそうです。

 

津波で被災して水が引いたあとの工場跡。

イラストレーターの宗誠二郎さんが

一番苦労された場面だったそうです。

あまりリアルに描くのもそんな思いからでしょう。

今までの白地の見開きから一変します。

でも想像力豊かな子供にはきっと理解出来る、

そう思います。


 

須田さんたちが最も伝えたかった言葉が

絵本の帯にあります。

「あの日、

津波に流されずに

残ったものがあった。

それは、希望だった。」

 

須田さんの手に今、私も繋がりました。

そして愛する経堂の地からこのような支援が

始まったことを改めて嬉しく思います。

 

(参考 NHK生活情報ブログ201239日より)

 

文:沢田寛子

 

2件のコメント

  • 経堂ってほんとに嬉しくなるような街なんですね。
    災害の記憶を風化させずにということが大事だという事には、全く気がついていませんでした。
    ちょっと頭をコツンとやられた感があります。
    TOKYO MXでの「つながり通信」の録画を
    http://imamusic.exblog.jp/15716724/
    ここで拝見しました。
    さばのゆさんもいい個性を出しているようで、落語会もやってるとか、うらやましいです。
    サバ缶といえば、
    これに同量ほどの新タマのみじん切りに練り芥子を加えてかき回し、お気に入りの酒の肴です。
    ちょっとソグワナイコメントになってしまって、失礼。≦(._.)≧

  • 以前どこかの番組で経堂の居酒屋オーナーさん達が軒先で、津波に流された宮城のサバ缶の泥を拭いているのを見たことがあります。
    兄夫婦が住んでいる町なので尚更気持ちは入ってしまいました。
    無償の愛で 人を助け続ける、、、
    私も被災地出身。
    さばのゆさんと同じ気持ちであり続けたい。
    絵本、読んでみます☆

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