歌川国芳展カタログ

 
北斎、広重、豊国といった絵師は江戸時代の流行絵師で、
主に印刷物の世界で名を残す、スーパーイラストレーターだ。 
当時の江戸と言えば世界的に見ても大都市であり、
その印刷物の量、質、種類もまた尋常ではない数が出版されていた。 
バックボーンとして、寺子屋などによる
「読み書きそろばん」が一般的に広まり、
世界随一の識字率を誇るまでになった事、
天下のお膝元、一旗揚げようと集まる地方出身者が増加する中、
新しい文化潮流がもてはやされる気運が高かった事も考えられるが、
そう言った「新しいモノ、コト」をいち早く、
広く知らしめるタメにも印刷物が必要とされた時代だったと思う。 
 
この展覧会。先に見た友人から「絶対観とけ!」とメールをもらい、
メール中「めちゃ混み」という事も書いてあったが、会期も終わり近く、
ほどほどになっただろうかと行ってみると、大行列。
大変な関心の高さに驚いた。
・・・まぁ、結構、デートコースの一つみたいな方々もいらした感じだったけど。 
入場までに30分以上、中に入ってから出るまで4時間。
がっつり観た。 
 
入場してすぐの最初の言葉を読むと、
「江戸のグラフィックデザイナー」とある。 
絵師としての理解は有ったが、
グラフィックデザイナーという捉え方に違和感を覚えた。 
「グラフィックデザイナー=絵を描く人」という認識は一般の人に根強く。
ひとえにグラフィックデザイナーってなにやっているのか
知られていない事が多いからなのだが。。。
ここでもナニヤラ混同されているのかな?と思ったりしたが・・・
言うてもキュレーターの文章、そんなミスはしないだろう。 
 
ユルユルとした歩みの中を我慢しながら一点一点見ていく。 
時々忘れるけど、これ、全部「版画」木版の多色刷り。 
あまりの細かさに、その事をフと思い出しては「ギョッ」とする。の、連続。 
衣装の豪華な飾り、模様、色の合わせ。
国芳のブレイクスルーとなった人物絵のパワー。
ポージング、表情、文字の位置、大きさ。
コレクションする楽しさなど、これがヒットする要因は
今でも通じるポイントが多く見られる。 
何よりカッコイイんだこの絵! 
ズバッと決まった形が良い。 
所々に登場するモンスターの類も個性豊かで楽しい! 
今、これらをアレンジして描き直しても全然イケる。
そんなテンションの高さを感じながら観ていく。 
 
役者絵も、舞台をただの舞台として描かずに、
その場面そのもののイメージで描きおこしていて臨場感タップリ。
物語がそのまま役者絵の姿を借りて描かれれている様で、SFXみたいだ。
また、歌舞伎の歌舞伎たる衣装の豪華絢爛たるや! 
過剰な細かさは一点一点どんだけ眺めていても飽きない。
そんなモノをこんなに並べられては疲れる疲れる。 


 

美人画?国芳と言えば、妖怪とポンチ絵的な面白浮世絵のイメージが強く、
美人画の印象は無かったが、見ればなかなかのモノばかり。 
粋でいなせで気っ風の良さそうな美人が多く、
コーナーはじめのコメントにも有ったが
「笑顔で健康的」な美人が多いというのはうなずけた。
江戸っ子の空気。さばけていて、からっとした雰囲気が良い。 
日常生活の一場面を描いたピンナップ的構図が多く、
当時の風俗が見て取れて面白い。でもってオシャレ。 
着物の着崩し方なんか格好いい。
今では堅苦しいイメージが先に立つ「着物」も
当時は当たり前だけど「普段着」。生活感有って当然。
そういう感覚がこんな美人画から分かるのが面白い。 
 
まだまだ展覧会も半ば。「子ども」や「風景」は人もまばらで、
人気が無い、というより、元々興味がない人はサッサと先に行くみたい。 
子ども絵なんて珍しい。遊びや服装、
とにかくチョコマカとした様子は結構興味深い。 
時代劇、小説、漫画ですらなかなか描けない部分が多く、
ワンパターンになりがちな所。 
こういうビジュアルな資料は覚えておくと役に立つかも。。。 
風景は・・・広重かなぁ。 
西洋絵画を学んだというイラストも、
西洋絵画に見慣れてしまった自分らには
「はぁ、なるほど・・・」位の感慨しかわかず。
僕もサラッとスルーしてしまった。 


 

さて。 
人もまばらな感じだった館内に、にわかに大混雑の展開。 
間もなく「戯画」のコーナー。 
国芳の最も国芳たる浮世絵が「戯画」自由奔放なるイメージの放出。 
妖怪、擬人化、動物、遊び絵・・・大好きな猫もあちこちに描かれ、
自身も笑いながら描いたような気がしてしょうがない浮世絵の数々。 
当時は国の規制も厳しく、笑ってられない状況だったにもかかわらず、
てやんでぃ、コチトラ江戸っ子でぃ。そんな縛り屁でもねぇやコンチクショィ。 
そんなイラストをニヤニヤしながら眺めていると
「これはもしかすると、絵が描けるって楽しいんじゃないか?」と思えてきた。
なんだかワクワクしてくる。すごい。 

 
さてさて。 稀代の絵師国芳のどこがグラフィックデザイナーなのか・・・。 
ずーっと考えながら見てきて、これらがまず、「アート」ではないという事実。
それから、国芳ひとりで描き上げたイラストではないという事実。 
今でこそ浮世絵をアートとするが、当時は出版物であり、
版元の依頼で描く受注制作のスタイルだったこと。
内容も、当時の流行、情報の最先端を描くわけで、古典という意識は無いし、
また、売り上げが大事という点もポイントだろう。 
それから、展覧会の作品説明の中に当時のカルチャーに詳しい人物が、
国芳のブレインとしてフォローしていたという話や、
版元お抱えの刷り師達の職人技に支えられ、制作するといった
「チームワーク」による制作など、現代では、
あたかもグラフィックデザイナーとしての役割を、
まんま果たしているのがわかってきた。 

 
江戸のスーパーイラストレーター達はただ
「絵」を描くだけでは無かったのだ。 
なるほど確かに納得、と言うわけである。

文責:やまだ

 

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