エピステーメ叢書『空飛ぶ円盤』C.G.ユング 朝日出版社

1978年に発行されたこの本は、杉浦康平門下の辻脩平さんのデザインである。画家ルドンのモノクロの目玉のイラストレーションを極彩色に彩ったものだ。今見ても古さを感じさせないが、あらためて、1970年代の読売ゴシック+ボドニ+読売明朝+クロイスターのノンブルで組まれた独特のスタイルである。杉浦流である。折しも2011年12月はgggギャラリーで杉浦康平マンダラ発光 展が行われている。永くネパールに関わった杉浦さんの独特のアジアの造形である。


 

 マンダラというのは胎蔵界マンダラと金剛界マンダラがあるが、いわば心と体の仏教の世界観を図像化したものである。人間が通過しなければならない成長のプロセスを修行というのだと思うが、その全体像とも言うべきものだ。実はマンダラに興味をもったのは、ユングの著作をとおしてであった。ユング自身その意味もわからず、奇妙な抽象画を描いていたわけだが,ある日友人から送られてきた中国の図像の中に不思議な一致をみいだすのである。それがマンダラであったと後々わかり、それが彼の無意識の研究に一石を投ずるのである。

 ところでユングの著作の中で『空飛ぶ円盤』は最後のものなのだと知った。かなり意外であったが、ユング自身 空飛ぶ円盤についての論評をじっと待っていたようだ。科学者としての態度を誤解されるのをきらったためと思われる。この著作でユングが言っていることは、空飛ぶ円盤は共同幻視であろうということだ。集合的無意識に時代の不安感が働くとき、そのような現象が出現することを、中世の版画に現れている図像を読み解くことで解明しようと試みている。読み進んでいくと,時代時代の空飛ぶ円盤目撃者の願いが極めて宗教的であることが浮かび上がってくる。われわれが心の深奥にかかえている、無意識のひずみとスピリチュアリティの狭間から生まれ出されたもののようである。

 先日米国の空軍であったか航空宇宙局であったか忘れたが、空飛ぶ円盤は存在しない、調査を打ち切ると言う発表があった。ユングが正しければ、これからも空飛ぶ円盤の出現は続くにちがいない。

 

堀木一男

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