コドモノクニ名作選



アシェット婦人画報社
上下セット4,500+税



大型書店で平積みになっていたこの本を手に取り、パラパラと見て「これは買いだ!」という衝撃が走った。即座に平積みの山の中腹から1セット抜き取りレジに向かう。(並んでから値段見てビビった)
俗に言う「衝動買い」というやつだ。

「コドモノクニ」という児童向けの雑誌が出版されていたということは、以前、国際子ども図書館(上野)の展覧会を見に行って知っていた。なんと言う展覧会の時だったか、戦前・戦中に出版されていた児童向けの雑誌の挿絵がいくつか展示され、その質の高さに目を見張った記憶が有る。その展示物の中に「コドモノクニ」の挿絵もあった。
この画集は、「コドモノクニ」に書き下ろされた挿画の傑作をまとめたものである。



「コドモノクニ」は、大正・昭和初期の児童向け雑誌だ。
戦前の雑誌だが、その絵の面白さ、楽しさ、明るさ、アイデア、表現力、その他諸々、全てをひっくるめて「子どもにこそ良い物を」という気概を感じさせる質の高さ、志の高さを感じた。
昭和も半ばを過ぎて生まれた僕でもどこか懐かしく、しかし、絵によっては衝撃的な程、斬新で、新鮮な印象を感じてしまうものもあり、時間を忘れて見入ってしまう。



童話や詩などを寄稿した文人も、挿絵画家として参加した絵師の面々も「名作選」に偽わり無いお歴々。
岡本帰一、武井武雄、初山滋、清水良雄、亀倉雄策、川上四郎、深沢省三、村山知義、東山新吉(魁夷)、本田庄太郎、竹久夢二、松山文雄、伊藤孝、深沢省三、福田新生、恩地孝四郎、安井小弥太、古賀春江、岩岡とも枝、北沢楽天、横山隆一、室井犀星、内田百聞、土門拳、中原淳一、サトウハチロー、草野心平、小川未明、西條八十、北原白秋、野口雨情・・・書ききれない。僕でも知っているような大家が、子どもの為に創作した絵や文というのも面白い、しかも、子ども向けといっても決して「幼稚」ではない、挿絵の範疇を超えて「アート」の領域にまで達する絵のスゴさは感動モノだ。「デザイン」と言っても良いような挿絵もある。日本画からのタッチも有れば、洋風な空気を持った絵もアリ、と、様々。良い歳こいたおっさんでも、こうして夢中で頁をめくってしまうのだ。

出版業界全体にデジタル化が進み、簡単に高速で高品質な印刷物が可能になった今でも、ここまで「出来た雑誌」は有るのだろうか。更にこれからは印刷しない出版物、デジタル本が出版(もはや版ではない、配信)されていくような「高度情報化社会」という将来を眺めると、こうした「情感豊かな出版物」がこの先、未来につくられるのだろうか。
童謡の頁を開くと自動的に歌が流れ、絵が動き、絵をクリックするとその動物なり、モノの詳細な説明(写真や動画を含む)が別ウィンドウで開き、関連書籍へのリンクが張られている。という、どこまでも正しく正確な「情報」としてのデータが続く「コンテンツ」。それは悪い事ではないが、下手でもお母さん、お父さんが歌ってあげる事や、一枚の絵の奥へと潜って行くような、想像力の世界の広さにはかなわないのではないかと、思ってしまう。

ただのお気に入りなのだが、昨今の出版業界事情とからめて、もやもや考えてしまった。



衝動買いの常習犯で、「失敗」という前科も多いが、この画集は久しぶりの「大当り」。

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