300円 と 無料──『BIG ISSUE』と Free Paper



『BIG ISSUE』を買ってみた。この雑誌はホームレスの人たちの自立支援の為に2003年創刊されたもので、書店ではなく街頭でホームレス自身の手で販売されている。雑誌を売ることで彼らに「仕事」と「収入」をもたらすこの支援の仕組みを、私は創刊時に各メディアで知り「妙案を考える人がいるものだ…」と感心した覚えがある。好意的ではあったが販売者を気にかけたわけでもなく、実際には距離を置いたスタンスだった。
 ところが、このところ通勤途上の駅近くに販売者が立つようになった。暑い日も寒い日も『BIG ISSUE』を掲げて立ち続けている販売者。夕方など公園のベンチで休んでいるまさにホ-ムレスな光景も。販売者が替わったときには、その事情など想像してしまう。なにより気にかかったのは、買い求めている人を一人も見かけなかったことだ。もし売れ行きが芳しくないのなら、自立支援にならないのではないか?



私たちの現在身の回りではフリーペーパーが溢れ、商業雑誌は低迷している。今まで親しんできた印刷媒体はどうやら行き詰まりつつあり、だからか私たちグラフィック・デザイナーも厳しい時代を過ごしている。この状況は『BIG ISSUE』にとってもおそらく同じだろう。それでも売れる魅力ある内容なのか…気になってしまう。一度読んでみよう…と思いたって買ってみたのだが、路上で販売するおにいさんに声をかけるのは思いの外ハードルが高かった。そのこともまたこの雑誌にとって逆風のひとつと思えてしまう。

『BIG ISSUE』139号/A4サイズ/フルカラー32ページ。売価300円の内160円が販売者に渡るシステムである。
 仮に1日20冊売れたとして手元に残るのは3200円の収入だ。もっと売れれば良いのだろうが…どうなのだろう。
 表紙は毎号、海外の映画スターやミュージシャンなど豪華とも言える人々が飾る。インタビューの対象も、執筆者の顔ぶれも内外の著名な人たちが多く、考えていたより贅沢だと思った。この雑誌が元々イギリスで始まって成功している『BIG ISSUE』のモデルを、日本に移入したもの…という由来を考えると納得できる。記事の融通がきくのだろう。



 他の誌面では、街頭で『BIG ISSUE』売っている販売者の記事もあったり、おおむねまじめで読み応えのある記事で構成されている。誌面全体の印象はそこそこのフリーペーパー風といったところか。
 商業広告は無く、実質29ページ程が編集記事となっている。制作・運営の費用のことを思うと、この雑誌が取材される側、執筆・制作する側、サポーターなどの「善意」「好意」によって支えられているだろうことは容易に想像できる。関係者のガンバリは伝わってくる。そして社会的関心のある善意の読者にとって、300円に対するこの内容は「無駄」ではないだろう。だが良くできたフリーペーパーと比べて、圧倒的な質量とまでは行ってない。



Web上などでは『BIG ISSUE』に関して、批判的な意見も多いことが分かる。物事には賛否があって当たり前だが、私はそれでもなお好意的な側に立っていようと思う。だから少なからず行く末を心配しているわけだが、印刷媒体そのものが縮小している中で、早晩次ぎなる対応、新しいアイデア、別なシステムが求められるのではないか…とも思った。

   20100514
   岡野祐三

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