掘り出しもの

「Stay hungry. Stay foolish. 貪欲であれ、愚直であれ」
言うまでもなく、昨年AppleのCEOスティーブ・ジョブスが亡くなって、彼の生涯と成功を支えた座右の銘として知られるようになったフレーズである。
またこの言葉が「The Whole Earth Epilog」という本の裏表紙に刷り込まれていたものであることも、話題になった。40年近くも前の刊行物に再びスポットがあたり、当時の時代背景とそこに生きたジョブスも含めた若者たちを、思い起こす機会にもなったのではないだろうか。
 
 
それで…年末恒例の我が部屋の大掃除のおり、本棚の片隅にこの本を発見。どこでどう入手したか記憶がないが、学生時代の友人や時の影響で「カウンターカルチャー」的ではあった当時、憧れを込めて購入したことは確かである。わたしも当時の若者でジョブスとほとんど同世代…ということですね。その後の開きが大きすぎるが… 
大判だが簡易な造本で、表紙は色褪せザラ紙の本文は変色しているが、引っ張り出して紹介してみることにした。裏表紙の「Stay hungry. Stay foolish.」を見て「あゝ、これが…」と亡き天才の顔を思い浮かべる。
 
 
「The Whole Earth Epilog」は1974年にアメリカで刊行された。60年代から70年代にかけてのアメリカに大きな影響を与えながら、数度にわたり刊行されたペーパーバックス「The Whole Earth Catalogue 全地球カタログ」の最終号にあたる。内容は文字通り「地球」に生き、関わるための「カタログ」である。
当時のアメリカは泥沼化したベトナム戦争をはじめ、社会的な矛盾が吹き出した激動期だった。若者たちを中心に反戦平和・エコロジーなど様々な運動に状況打開の道筋を見いだそうと、多くは現代文明そのものに疑問を投げかける形で模索が行われていた。
「全地球カタログ」は、そうした模索や生き方のための「知恵の集積」ともいえる本だった。もちろん情報通信の革命以前のことであり、「Web」まして「google」「Wikipedia」など思いもよらない時代である。多くの人に広めるために安価なペーパーバックスのカタログとし、掲載されたものは注文すると通販で手に入るようにしたのだ。
編者スチュアート・ブランドの言葉。
   「この本は僕たちを「消費」に向かって駆り立てるためのものではなく、
   僕らが地球という惑星の上でヒトとして自立して生きるための
   手がかりを提供しようとしている」
 

 
スティーブ・ジョブスはブランドと面識があり交友もあったらしい。その考え方生き方に共感し、影響を受けていたものと考えられる。「Stay hungry. Stay foolish.」はブラントからのエッセンスのようなメッセージなのだろう。
そういったことを思い合わせると、「全地球カタログ」の表紙地球写真とiPadのHome画面の宇宙に浮かぶ地球の写真との繋がりが、すとんと腑に落ちる。宇宙に浮かぶ青い惑星が彼の半生にとって「座右のイメージ」ではなかったか。
 
そして今、日本そして世界はまた大きな転換点に差しかかっている。人類の知恵はどのように集積し、どう示されたら有効に生かせるのだろうか。
 
岡野祐三

 

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