装丁の仕事

雑誌や冊子のデザイン主体のコンビビアでも
書籍の表紙まわりを手がける機会はけっこうある。
そんな時自らを「装丁家」と考えているかというと、その意識は私には希薄だ。
社内では装丁の機会が少ない方という、量の問題が大きいのだが
「装丁」「造本」「ブックデザイン」への興味が薄いわけではない。
装丁が気になってつい買ってしまうこともままあり、ここで紹介するのも
そうして購入した本のひとつだ。

『装丁思案』菊池信義/角川学術出版/3,000円
装丁家それも大御所が、まさに装丁そのものについてふれた「自著・自装」本である。

外見は「白・赤・黒」という、印刷の原点のような色使いで構成されている。
タイトルと帯のコピーサイズの逆転や、タイトルと著者名の文字サイズに
差をつけない処理を、色のコントラストを巧みに使って自然に見せている。
そのほか判型、用紙の質感、表紙の芯紙の厚みの選び方など、
改めてじっくりみると“なるほど”と思わされてしまう造本だ。

「雑記」として2〜3ページに本1点ずつ、その装丁について綴られている内容は
選ばれている本のジャンルの多様さをはじめ多岐にわたる。
「造本」「用紙・素材」「文字」「装画」…それらが、幅広い知識と
深い洞察によって結びつけられる。そこを起点にそれぞれの装丁者の
本作りへの思いまで、装丁家は想像を巡らせる。
この装丁へのまなざしは、裏を返せば自らの創作作法とも云え、興味深い。
著者は、書店に足を運び目に付いた本を買い求めたうえで、その装丁について
思いを述べている。菊池氏ほどになれば献本や贈呈本には
相当恵まれているはずだが、“書店で身銭を切って評価してこその装丁”
というスジの通し方には共感できた。

しかし正直に言うと、私はこの本を最後まで読む気力が続かなかった。
それが何だったのか…一時的な気持ちの問題だったのかもしれないが
「幅広い知識と深い洞察」にちょっと酔ってしまったような按配だった。
読了できなかった本を前に、もう一読したものかどうか思案している。

自分たち(コンビビア)が多く係わる装丁のジャンルといえば
文芸書ではなく理科系・医療系が大部分である。
一般読者が対象でないこのジャンルでは、発行部数が限られており
まして出版不況のご時世、出版社の事情は厳しいのだと思う。
「ジャケット・腰帯・本扉」を1セットとして依頼されることが一般的で
版元にもよるのだが、造本に係わる構造や用紙・色数は選択できないことが多い。
菊池氏の「装丁」とは大違いの条件であり、考えようによってはまるで
「包装紙」のように、表面的な意匠をデザインしているだけのようにも見える。
それでも自分たちとしては
本の内容と読者のことを考えながら、可能な限り良い選択をしていきたいと
努力しているし、できうるならば本文ページの設計を含めた
「ブック・デザイン」を目指している…
とここで表明しておきたい。


   20100308
   岡野祐三

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