「丸木美術館」秋だな〜

「原爆の図」を見たのは中学生の頃の教科書。広島に落とされた原爆の絵が、埼玉にあるというのが不思議でした。

特攻隊に参加した若者の絵画を収集した「無言館」の方はその成り立ちが近年映像化もされたり、特攻隊を題材にした映画がライトノベルのような設定で悲恋展開が泣けると話題になったりしていたようですが。「原爆の図」は、昔はときおりアート系の番組で紹介もされていましたが、最近はあまり見ないなぁ。

「丸木美術館」
「いつか、行ってみたい。行かなきゃ」と思って40年近く過ぎていました。
三連休は天気が良いって? じゃ、どっか行くかな。
と、思った時、本当にフと思い立って、連休の真ん中に出かけることにしました。

東武東上線、つきのわ駅より、徒歩45分(駅から2.5キロ)。
都幾川の堤防上にある丸木美術館は、県道から脇の小道に折れ、雑木林の間を抜けていった先にありました。
水色の建物が爽やかな2階建ての建物。鳥のレリーフや、彫刻があり立派な公民館か、大きな幼稚園のような外観。
裏に回ると小さなお堂や、見晴らしの良い木造平屋の建物が都幾川に面して建っています。秋の陽光を受けて佇む景色を見ていると、人気もないせいか時が止まっているかのような雰囲気です。

入口で入場料の大人900円を払い、「階段を上がると原爆の図があります」という簡単な観覧順の説明を聞いて、いざ木製の扉をくぐり入館。
エントランスには、すでに何人かの来場者がアートグッズや作品集を眺めていました。
とはいっても、混んでいるとは言い難く、どちらかというと静かな館内。

丸木美術館:水墨画家である丸木位里、奥さんで油彩画家の俊による共作である「原爆の図」全15部のうち14部を所蔵し、展示している。
2階に上がると、広い展示室にあの絵がありました。
原画です。当然ですが教科書の挿絵の1000倍以上のサイズです。
しかも、15もあると初めて知りました。

広いフロアに1人静かに向き合っていると、悲しみが迫ってきます。
痛みや苦しみや、怒りや無常や、憎しみや絶望や…怨念のような圧はすでに無く、ただ、ひたすら「悲しみ」を感じる気がします。
それはもう、見るも無惨な、破壊された人間の姿が描き付けられているのですが、水墨画の静謐な表現が、荒ぶる感情を静かに、鎮魂の思いにのみ収めているかのよう。

展示は8隻(8部)の屏風。内、修復中のモノがあり精密な複製が展示されていた。
大きな屏風に描かれた「原爆の図」は、水墨の墨の煙るような奥深さの中に鮮血や白々とした白骨が現れます。絵の中に入って、凄惨な惨状を眺めているかのよう。

作品から距離を取り、あらためて、言葉が悪くて申し訳ないが、「よく、こんな絵を描き続けることに生涯を掛けたな」と、呆れたというか、唖然としたというか。
ここまでした丸木夫妻の魂に想いを馳せ、絵を描くということとは、芸術とはなにか、とか、猛烈に考える機会になった。(あたりまえのように結論は出ないのですが)

原爆の図以外にもアウシュビッツ、南京大虐殺、第五福竜丸といった悲劇にも向き合い、惨劇に飲み込まれた無辜の人々の無念を描いた作品が展示されている。

毎日毎日、昨日もテレビでガザやウクライナの映像を見ている。
病院が、学校が狙われた。何人死んだ、子供が死んだ。
軍人が敵兵をドローンで殺す仕事をしている。仕事だ。
麻痺するくらいの殺し合いが続く。

さて。
丸木美術館は一連の大量殺戮の絵だけではない。
丸木位里の母が70を過ぎてから絵筆を取り、描き始めた作品や、60で絵を描き始めた妹の作品なども展示されている。
カラフルな鶏が走り回り、猫の親子が日向ぼっこして、子供たちが庭の柿を収穫する。
メインに対してまったく真逆のほっこり感に笑えてくる。

余談01
この日、ノーベル平和賞を日本原水爆被害者団体協議会が受賞した。マスコミの取材などでとても華やかなニュースだった。丸木美術館の静けさが際立つ。

余談02
来場者が自由に書けるノートがあったので、思ったことをダラダラ書いた。観た直後だったのでまとまっておらず、マジでダラダラと書いた。他の人はどんな書き込みしてるかなと、チラッと見ると「気持ち悪い」とだけ書いたコメントが目に飛び込んできた。
良いふうに解釈するか、悪く解釈するか。言葉が少な過ぎて判断がつかないけど。
歴史上、実際に、ほぼ一般人が無差別に14万人死んだという事実を描いた作品に対しての感想としては、あまりにも。あんまりな。
気持ち悪くない方法で伝えないと、それこそ、ライトノベルのような悲恋の物語かなんかで包んで「感動する」「泣ける」話にでもしなくては、見てくれないのだろうか。だとしたらあの特攻隊の映画の手法は正しかったのかもしれない。なんか、時代だなー。

文責・写真:やまだ

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です