ナナセンチ

一昨年の夏、渋谷の「irodoriya」というお店で

「ナナセンチ展」という作品展が開かれていました。
志岐奈津子さん著『ナナセンチ』という本の世界を
内藤和美さんが絵やフェルト作品で表現するコラボレーション展です。
こじんまりとしたギャラリースペースに、
楽しい色とハンドメイドのあたたかさが溢れているような
すてきな作品展でした。
今回はその『ナナセンチ』の本をご紹介します。
縦長で手におさまりの良い本は、軽くやさしい紙の手ざわり。
綴じ糸をそのまま見せる綴じ方や、
「7cm」の文字でできたクマのシルエット、
レトロな「アラタ」書体、などなど
こだわりがあちこちにちりばめられていて、
読む前から“お気に入り”の予感です。
そして開くと、文字と白の心地よいバランス。
短編集ですが、詩のようなゆったり感。
「ナナセンチ」というのは、とつぜん現れた
身長7cmピッタリの黒いクマに
社会人の「ぼく」がつけた名前です。
小さくても態度は大きい「ナナセンチ」。
ヒトクセある彼に「ぼく」と読者は
戸惑ったり、振り回されたりしつつも、
その言葉や行動から大事なことを教えられます。
そんな「ぼく」と「ナナセンチ」の
間の距離や、声のトーン、空気の広がり……
不思議なくらい想像がふくらむのは、
タイポグラフィの遊びと、余白が、
物語の世界をより豊かにしているからでしょうか。
まさに“文字の絵本”という感じです。
この本のタイポグラフィを担当された
八十島博明さんは、
学生の頃にお世話になった先生です。
後日、使用書体やレイアウトデザインについて
お話を伺うことができ、(ちゃっかりサインもいただき、)
いっそう印象深い一冊になりました。

田島

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