なんだ! これは? ────ストランドビーストの世界

かつて科学雑誌「Newton」の仕事をしていた時、
「ハルキゲニア*注1参照」という古代生物に初めて出会って衝撃を受けたことがある。
その形は想像を超えた奇天烈さだった。

近年よく似たショックを受けたのが、テオ・ヤンセンという人が作った
「ストランドビースト」だ。


 

波打ち際の砂浜に佇むその奇妙な姿は、機械にも生命体にも見えて
強烈に惹かれる光景だった。風をエネルギーとして動くのだという。
大きくて複雑に見えるが、基本構造は案外単純そうで、どう見ても進化途上の形態。
そのあたりがハルキゲニアとよく似ている。


 

実際に「ストランドビースト」は、ヤンセンがコンピュータ上の単純な仮想生物から始めて、
プラスチックチューブで実態を持った構造体を作り出してから、何世代にもわたる
改変を加えられ、まさに進化を続けている。
その過程をまとめた系統樹から見て取れるのは、やはり生命進化への
工学的かつ芸術的アプローチだ。
物理学と生物学を融合したようなものすごく奇妙な形は、テクノロジーとアートの枠を超えて、
太古の生命体の試行錯誤を感じてしまう。

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もちろんこの進化が何らかの理由で止まり、文字通り絶滅してしまう可能性も高い。
そのことも含めてテオ・ヤンセンが「ストランドビースト」から発するメッセージは、
良いも悪いもなく、ただ深い。

 
ここに紹介した資料は、入手しやすい「大人の科学マガジン別冊/学研」だが
既に様々なところ(*注2参照)で取り上げられ紹介されている。
 
*注1 カナダ・ブリティッシュコロンビア州のバージェス頁岩(カンブリア紀中期後半、約5億0,500万年前に属す)で化石が発見された(1911年)古生物。当初の復元像は誤りで、上下と前後を逆さまにしたものであったことが判明。私が古生物学の洋書で初めて見たハルキゲニアはこの上下逆さまの復元図であったが、実に見事な臨場感のある絵だった。 
*注2 2006年BMWのCMで紹介された。ビーストが動く様子とヤンセンの姿を見ることができる。YouTubeには他にも様々な動画が上げられている。 

岡野祐三
 

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