本質的なもの

昨年、 print gallery Tokyo で

エミール・ルーダーの生誕100年を祝した展示会が開かれました。
展示されている本のページをめくる度に感じたのは、
感動的と言っても良いほどの心地良さ……。
本文や写真、ノンブルなどのすべての要素が、
ここ以外の場所はない、というような
絶妙なバランスで置かれているのです。
このデザインが何処から生まれたのかを知りたくなり、
この1冊にたどり着きました。
この本はエミール・ルーダーがタイポグラフィ専門誌で
連載していたデザイン論をまとめたものです。
「平面」「線」「言葉」「リズム」という4つのテーマ、
これらはまさにタイポグラフィにおける“本質的なもの”。
各テーマについて、歴史・社会・美術・地理などと
結びつけて考察されているのが面白く、
例えば、均一で過密状態のデザインについては
こう書かれています。
「それは現代人の生活のイメージそのものである。
すなわち、休みない活動、絶え間ない緊張、
やむことのない騒音、娯楽産業、一人でいることの、
そしてリラックスすることの不可能性、
静寂と沈思に対する不安、自分自身に対する不安だ。」
平面のデザインが、ライフスタイルや心理とも
繋がっているというのは、とても興味深いです。
過密な誌面を見て「疲れる」「息苦しい」と感じる気持ちは、
たしかに、満員電車での安らげない気持ちと似ています。

そして、第4回「リズム」の講義の
最後に書かれている言葉が印象的です。
「我々が今日「モダン・タイポグラフィ」という名で呼んでいる
あまりにも多くのものが、表面的であり無知である片鱗をうかがわせている。
(中略)
タイポグラフィにおけるデザインとは、なによりもまず、
組版の際に顕在化するあらゆる要素に気を配ることなのだ。」
まさしく彼のデザインはここから生まれていて、
それは時代や言語が異なっても変わらない、とても大切な基本のこと。
今、日本でタイポグラフィに関わっている私も、
あらためて丁寧な気持ちでデザインに臨みたいと感じました。
田島

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