ニライカナイ

お賽銭箱の奥の、真っ暗な祠の中。

なんとなく、見ては罰当たりな気がするけれど、
何があるのか気になって仕方ない。
そこで、お賽銭を入れて(許されたような気になって)
木の格子の隙間から、真っ暗闇を覗いてみる……
 
藤井保さんの写真集「ニライカナイ」を見ていると、
その時の気持ちがよみがえります。
日本の海に浮かぶ島々の風景を切り取った写真集。
目をこらすと暗闇に浮き上がってくる景色は、
静かで、厳かで、少し怖い。
テレビのように、ただ目を向けていれば良いような
光でいっぱいの表現世界とは正反対で、
この写真集の世界は、こちらの「見たい」という
気持ちや、想像力が不可欠です。

 
最初、明るい蛍光灯の下で本を開いた時は
その「見えない」ことに驚きました。
コントラストが弱くて暗く撮られた写真が多いのです。
でも、写真の黒に光が反射することの無い
薄明かりのなかで開くと、
この写真集はぐんと魅力的になります。
写真のうしろの青色も、
こんな主張の強い色を合わせるとは!と驚きましたが、
人を寄せつけない深海のような色は、
写真の世界観を際立たせているようにも感じるのです。

 
見たいと思って目をこらす。
そうして見えてくる風景には、
その時の自分の心の有り様までもが
写り込んでいるように感じられるのです。
昼も夜も明るいことに慣れた目を
リセットしたい時に、この写真集を開きます。

 
文:田島

 

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