ブルーノ・タウト「熱海の家」
岩波新書「日本美の再発見」を読んだのはもう30年も昔のことである。その頃デザインの勉強会で建築家のライトのことなど学んでいた僕は、IDの仕事をしていたM氏に多分勧められたのだと思う。著者のブルーノ・タウトはドイツでは表現主義の建築家として名をなしていたが、当時ドイツに台頭してきたナチス政権をおそれて来日した。高崎に住まい工芸試験場で指導を行い、日本各地を旅行して、日本の中の美しいものについて書き留めたものが「日本美の再発見」である。
僕が驚いたのは、「津軽のこぎん」や、農婦が着た野良着である「絣」などの美しさについて、触れている点だ。日本民芸館の柳宗悦が収集したそれらを何度も見ていたが、なにをどう感じたらよいか全く判らなかった。われわれ日本人は欧米の文化に親しみ学ぶことが多いが、和の世界の受容の仕方を身につけていない。「絣」にしても「伊勢神宮」にしても何が日本的美であるかわからなかった。そのまっすぐで柔らかい視点を教えてくれたのがタウトである。
タウトは在日中、建築家としては不遇であった。桂離宮や伊勢神宮などとの出会いがより彼を豊かにしたことは想像に難くないが、実際には建築に手を染めたのは、わずか1件、それも部分である。その貴重な建築が旧 日向別邸である。
熱海駅から海側に徒歩10分程度か。今は熱海市が監理している。予約が必要であるが、電話をかけて運が良いと比較的早く見ることができる。小グループ毎に解説してもらえるが、ボランティアはよく勉強してい手楽しめる解説だ。はじめに45分のビデオ映像ををじっくり見せられるが、これが良くできていてタウトをだれでも親しみやすいものにしてくれる。
タウトがこよなく日本を愛したことが切々と伝わってくるような、ちょっと胸をうたれる建築だ。日本で丸ごと1軒建築することができたらとなにやら
無念の思いが感じられた。
堀木一男
