田中一村の画集。



この秋に、奈良でこの作家の展覧会が行われた。
ネットでその情報を見た今年の夏の終わりに、
この画集を思い出したかのように引っ張り出して来て毎晩のように眺めた。

何の知識も興味もなく人に連れて行かれ一村の展覧会を見て
その絵に衝撃を受けたのはもう12年も前の話だ。
そしてそのまた12年前にこの画家はNHKの日曜美術館のスタッフに見いだされ
放送と展覧会で一躍日本中に知れ渡った。
画家が亡くなってから10年近く経ってからのことだ。

彫刻家の父により幼くして見いだされて画の才能。
同期に東山魁夷、橋本明治などがいた今でいう、芸大日本画科に入学するも
父と、そして自らの病気により、やむを得ず退学。
病気と戦いつつも 食べるために心ならずも描きたく無い絵を描く。
意を決して自分の描きたい絵を描き支援者に見せると酷評の嵐。


公募展に出せば、自分の自信作が落とされ
別の作品が入選になり、納得できず入選も辞退する。
それ以来中央画壇との関わりを一切絶ち
アルバイトで家族を養い,絵を描いた。

「自分の絵がなんと批評されようがいい。
人に見せるために描いたのではなく、
私の良心を納得させるためにやったのだから」
と晩年に言葉を残している。




その晩年は「絵かきとしての生涯最後を飾る絵を描く」という目的で
奄美という「楽園」のイメージをもってしまう南の島で
薄給の紬工場として働き貧困に堪え あまりにもストイックに、
自分の信念のために命を削るかのようにして描くことができたのでしょうか。
なぜにそこまで強くなれたのでしょうか。

画集を見ながら絵の凄さはもちろんだけれど
その絵の向こうに見える生き様に凄さを感じます。

比べようなどないのだけれど、アート活動をしているものの端くれとして
自分は自分の甘さを恥じます。 ここまで、命をかけて自らはアートをやってるのであろうか?

田中一村の画集は私を「自分もがんばらねばという気持ち」にさせてくれます。


文:羽田智憲 

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です