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CONVIVIA COLOR12『東京公園散歩』矢部智子『イギリス・ユートピア思想──ウイリアム・モリス』大平真理子 他堀木一男確か経済評論家の内橋克人だったと思うが、本を2冊並行して読むと新しい発見があるといっていたように思う。 クレマチスの丘にあるアート系の本屋で思わず買った本が、『東京公園散歩』だ。パラパラ繰ってみるとわかるが、東京にある見事な大公園のガイドブックなのだ。大公園巡りはやみつきの僕の趣味で、横浜や東京の里山や公園をまわって、その景観の美しさやバードウォッチングを楽しんでいる。 この本は、おなじみの新宿御苑や昭和記念公園、砧公園など広大で、樹木の生育の見事さにほれぼれする公園をいくつも紹介しているわけだが、ごろりと寝転がることが大切と僕と同じ視点であるところが嬉しい。なんでこんなに公園や樹木そして鳥に惹かれるのだろうと思っていたら、もう1冊の『イギリス・ユートピア思想』の中のウイリアム・モリスを読んではたと膝を叩いた。 ちょうど幕末の坂本龍馬と同時代にイギリスでは社会変革のためにモリスが奮闘していたわけなのだ。産業革命驀進中で、貧困層が多く何やら現代の日本に通じそうな社会背景で、未来を見通すためにユートピア思想が必要であったようだ。そのユートピア思想は豊かな自然の観察力と健康な社会構想力からなっている。モリスは多忙な生活の中で、自ら自然に癒され様々な壁紙のデザインに取り組んだわけだが、川や動植物の生態系が人間の暮らしにどれだけ必要か、身近に迫ってくる宅地開発業者の緑地破壊を目の当たりにして、生涯戦い続けた。 彼が求めたのは、良い自然環境の中で、喜びに満ちた人間的な労働の質の問題なのである。思わず何故公園の緑に惹かれるのか、了解できたのであった。社会300円 と 無料──『BIG ISSUE』と Free Paper岡野祐三『BIG ISSUE』を買ってみた。この雑誌はホームレスの人たちの自立支援の為に2003年創刊されたもので、書店ではなく街頭でホームレス自身の手で販売されている。雑誌を売ることで彼らに「仕事」と「収入」をもたらすこの支援の仕組みを、私は創刊時に各メディアで知り「妙案を考える人がいるものだ…」と感心した覚えがある。好意的ではあったが販売者を見かけたこともなく、実際には距離を置いたスタンスだった。 ところが、このところ通勤途上の駅近くに販売者が立つようになった。暑い日も寒い日も『BIG ISSUE』を掲げて立ち続けている販売者。夕方など公園のベンチで休んでいる、まさにホ-ムレスな光景も。販売者が替わったときには、その事情など想像してしまう。なにより気にかかったのは、買い求めている人を一人も見かけなかったことだ。もし売れ行きが芳しくないのなら、自立支援にならないのではないか? 私たちの身の回りではフリーペーパーが溢れ、商業雑誌は低迷している。今まで親しんできた印刷媒体はどうやら行き詰まりつつあり、だからか私たちグラフィック・デザイナーも厳しい時代を過ごしている。この状況は『BIG ISSUE』にとってもおそらく同じだろう。それでも売れる魅力ある内容なのか…気になってしまう。一度読んでみよう…と思いたって買ってみたのだが、路上で販売するおにいさんに声をかけるのは思いの外ハードルが高かった。そのこともまたこの雑誌にとって逆風のひとつと思えてしまう。 『BIG ISSUE』139号/A4サイズ/フルカラー32ページ。 売価300円の内160円が販売者に渡るシステムである。 仮に1日20冊売れたとして手元に残るのは3200円の収入だ。もっと売れれば良いのだろうが…どうなのだろう。 表紙は毎号、海外の映画スターやミュージシャンなど豪華とも言える人々が飾る。インタビューの対象も、執筆者の顔ぶれも内外の著名な人たちが多く、考えていたより贅沢だと思った。この雑誌が元々イギリスで始まって成功している『BIG ISSUE』のモデルを、日本に移入したもの…という由来を考えると納得できる。記事の融通がきくのだろう。 街頭で『BIG ISSUE』を売っている販売者の記事があったり、おおむねまじめで読み応えのある内容で構成されている。誌面全体の印象はそこそこのフリーペーパー風といったところか。 商業広告は無く、実質29ページ程が編集記事となっている。制作・運営の費用のことを思うと、この雑誌が取材される側、執筆・制作する側、サポーターなどの「善意」「好意」によって支えられているだろうことは容易に想像できる。関係者のガンバリは伝わってくる。そして社会的関心のある読者にとって、300円に対するこの内容は「無駄」ではないだろう。だが良くできたフリーペーパーと比べて、圧倒的な質量とまでは行ってない。 Web上などでは『BIG ISSUE』に関して、批判的な意見も多いことが分かる。物事には賛否があって当たり前だが、私はそれでもなお好意的な側に立っていようと思う。だから少なからず行く末を心配しているわけだが、印刷媒体そのものが縮小している中で、早晩次ぎなる対応、新しいアイデア、別なシステムが求められるのではないか…とも思った。自然のなかで生きる人間、人の間で生きる人間。

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