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CONVIVIA COLOR11ブルーノ・タウト「熱海の家」堀木一男岩波新書『日本美の再発見』を読んだのはもう30年も昔のことである。その頃デザインの勉強会で建築家のライトのことなど学んでいた僕は、IDの仕事をしていたM氏に多分勧められたのだと思う。著者のブルーノ・タウトはドイツでは表現主義の建築家として名をなしていたが、当時ドイツに台頭してきたナチス政権をおそれて来日した。高崎に住まい工芸試験場で指導を行い、日本各地を旅行して、日本の中の美しいものについて書き留めたものが『日本美の再発見』である。 僕が驚いたのは、「津軽のこぎん」や、農婦が着た野良着である「絣」などの美しさについて触れている点だ。日本民芸館の柳宗悦が収集したそれらを何度も見ていたが、なにをどう感じたらよいか全く判らなかった。われわれ日本人は欧米の文化に親しみ学ぶことが多いが、和の世界の受容の仕方を身につけていない。「絣」にしても「伊勢神宮」にしても何が日本的な美であるかわからなかった。そのまっすぐで柔らかい視点を教えてくれたのがタウトである。 タウトは在日中、建築家としては不遇であった。桂離宮や伊勢神宮などとの出会いがより彼を豊かにしたことは想像に難くないが、実際には建築に手を染めたのは、わずか1件、それも部分である。その貴重な建築が旧 日向別邸である。 熱海駅から海側に徒歩10分程度か。今は熱海市が監理している。予約が必要であるが、電話をかけて運が良いと比較的早く見ることができる。なんだ!  これは?────ストランドビーストの世界岡野祐三かつて科学雑誌『Newton』の仕事をしていた時、「ハルキゲニア*1」という古代生物に出会って衝撃を受けた。その形は想像を超えた奇天烈さだった。 近年それとよく似たショックを受けたのが、テオ・ヤンセンという人が作った「ストランドビースト」だ。 波打ち際の砂浜に佇むその奇妙な姿は、機械にも生命体にも見えて強烈に惹かれる光景だった。風をエネルギーとして動くのだという。 大きくて複雑に見えるが、基本構造は案外単純そうで、どう見ても進化途上の形態。そのあたりがハルキゲニアとよく似ている。 実際に「ストランドビースト」はヤンセンがコンピュータ上の単純な仮想生物から始めて、プラスチックチューブで実態を持った構造体を作り出してから何世代にもわたり、まさに進化を続けている。その過程をまとめた系統樹から見て取れるのは、やはり生命進化への工学的かつ芸術的アプローチだ。物理学と生物学を融合したようなものすごく奇妙な形は、テクノロジーとアートの枠を超えて、太古の生命体の試行錯誤を感じてしまう。 もちろん進化が何らかの理由で止まり、文字通り絶滅してしまう可能性も高い。それも含めてテオ・ヤンセンが「ストランドビースト」から発するメッセージは、良いも悪いもなくただ深い。ここに紹介したのは入手しやすい「大人の科学マガジン別冊/学研」だが、既に様々なところ*2 で取り上げられ紹介されている。*1 カナダ・ブリティッシュコロンビア州のバージェス頁岩(カンブリア紀中期後半、約5億5000万年前に属す)で化石が発見された(1911年)古生物。当初の復元像は誤りで、上下と前後を逆さまにしたものであったことが判明。私が古生物学の洋書で初めて見たハルキゲニアはこの上下逆さまの復元図であったが、実に見事な臨場感のある絵だった。 *2 2006年BMWのCMで紹介された。ビーストが動く様子とヤンセンの姿を見ることができる。YouTubeには他にも様々な動画が上げられている。 *1小グループ毎に解説してもらえるが、解説ボランティアはよく勉強していて楽しめる。はじめに45分のビデオ映像ををじっくり見せられるが、これが良くできていてタウトをだれでも親しみやすいものにしてくれる。 タウトがこよなく日本を愛したことが切々と伝わってくるような、旧 日向別邸はちょっと胸をうたれる建築だ。日本で丸ごと1軒建築することができたらと、なにやら無念の思いが感じられた。 big structures*2

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